釧路菓子商組合

記事一覧



  あんがぎゅっと詰まったドーナツに、ころんとかわいい形のレモンケーキ。どこか懐かしい、ホッとするお菓子。昔ながらの味が、簡素な装いで静かに並ぶ。「うちは味本位だから、パッケージのことはあんまり気にしないの。」そう笑うのは、南大通・甘秀堂の店主、佐々木政司氏だ。




 佐々木氏は岩手県の生まれ。中学卒業後、丁稚奉公で菓子職人の道に入った。お菓子が貴重だった時代、「甘い物を好きなだけ食べられると思った」。設備の要らないらっきょうあめやたんきりあめ、まんじゅうやドーナツを作り、自らの足で売り歩いた。そうしているうちに、「もっと技術を身につけたい」との意欲に駆られ、東京の製菓学校へ入った。学校を出たあとは、札幌で3年、釧路で3年修行し、現在の南大通・甘秀堂を開いた。なにもないところから店を始め、お菓子作りは佐々木氏、接客は妻の綾子さんが担当した。



早朝から夜10時まで店を開けていた時代もあった。そのときはごはんを食べる時間さえなかったという。お盆の時期は、店を開ける前に自宅の玄関から買いにきたお客さんさえいた。「忙しかったけど、楽しかったな」。今は、趣味のパークゴルフを楽しみながら、自分のペースでお菓子を作っている。

 7年前の秋に体調を崩し、入院を余儀なくされた。桜もちや大納言ケーキなど、約30種のお菓子のレシピが佐々木氏の頭の中に刻まれている。頼りは記憶と自らの味覚、そして手先だ。綾子さんは毎日病院へ通い懸命に看病したが、手先が上手く動かない佐々木氏を見て、お店はもう続けられないな、と思った。夫婦二人三脚でやってきたお店とも、これでお別れなんだ、と。しかし、病を克服し、家に戻った佐々木氏は、すぐにお菓子作りを再開した。不思議と手先は動いた。綾子さんは驚き、無理をしないでと頼んだが、佐々木氏はお菓子作りをやめなかった。それならば、と、綾子さんは佐々木氏の手足をマッサージするなど、体調面でのサポートを始めた。それからもう2年になる。

 「ここのじゃなきゃ駄目なんだと言ってくれるお客さんが、今日も来てくれる。いつまで続けられるかわからないが、無理をせずできるところまでやる。もし店を閉めるときが来たら、そのときはお客様ありがとうセールをやりたいね。」ふたりはそう話す。「商売を始めて50年。本当にお客さんにはお世話になってきた。感謝しかない。」

 妻の綾子さんとは、札幌の修行先で出会った。お菓子がふたりを繋ぎ、ふたりの絆がお菓子とお客さんを繋いだ。