11.パティスリーノエル 山本浩行氏 ”サバラン”というお菓子をご存知だろうか。フランス発祥の、ブリオッシュ生地をラムなどのシロップに浸した夏の伝統菓子である。ひとくちほおばるとシロップがジュワっとあふれ、香り豊かなラムの香りが口いっぱいに広がる。釧路ではほんの一部の店でしか作られていない、そんな本格的なお菓子を提供する店が光和にある。20年目を目前に控えた、パティスリーノエルだ。 「サバラン」 (カスタード・生クリーム・アングレーズソースをのせて) まるで宝石箱---。パティスリーノエルの店内に入ると、目に飛び込んでくるショーケースを見てそう感じるだろう。「ショーケースはキャンパスのようなもの。僕のお菓子への想い、こだわり、表現したいことが、ここにはぎっしりと詰まっている。」そう語るのは、オーナーパティシエの山本氏だ。 宝石箱の所以は、ケーキ1個1個の完成度の高さだけではない。所狭しと並んでいるケーキの種類の多さだ。そこにはショートケーキのような定番のものから、冒頭のサバランのような釧路ではなかなかお目にかかれないめずらしいものまで様々ある。棚には可愛らしく包装された焼き菓子も数多く並んでいる。 新しい商品を出すことには積極的にチャレンジするという。例えば、今や主流となりつつあるピスタチオやヘーゼルナッツなどの素材をいち早く取り入れ、手に取ってもらいやすいようマカロンにした。「ニーズを見て、考えて。最初は全然売れなくても、作り続けるうちに浸透してくる。作ったお菓子を信じているんです。」 パティスリーノエルには、山本氏のほかに2名の若いパティシエがいる。「お菓子は技術の塊。味も見た目も美しいものを作るのがパティシエの仕事。」そう話す山本氏は、そのためには職人にならなければいけないとも話す。「嫌なこと・面倒くさいことはやりなさいと言うし、厳しいことも言う。檄も飛ばす。今はぴんと来なくても、10年後、20年後にはきっとわかってくれる。僕がそうだったから。」自身は積極的に講習会に参加したり、美的感覚を養うために美術館にも通う。もう十分かと思われる技術に磨きをかける。より良いものを追い求め、現状に「満足しない」性格は職人そのものだ。 山本氏はもとはフレンチの料理人だった。当時、たまたま人手が足りていなかったパティシエの手伝いをしたとき、直感的にこれだ!と思ったという。自分のやりたかったことはこれなんだ、と。「ヒット作なんてなくてもいい。ノエルのお菓子はいつ来ても、何を食べてもおいしいねって言われたい。それが夢かな。」ブレない精神が、パティスリーノエルという店と、次世代の若い職人たちをつくる。 |